大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 平成3年(む)B123号 決定

主文

原裁判のうち、勾留場所を代用監獄である朝霞警察署留置場と指定した部分を取り消す。

被疑者に対する勾留場所を浦和拘置支所とする。

理由

一  申立ての趣旨及び理由

本件申立ての趣旨及び理由は、弁護人柴崎栄一作成の平成三年八月二六日付け準抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当裁判所の判断

別紙のとおり。

三  よって、本件申立ては理由があるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官木谷明 裁判官大島哲雄 裁判官藤田広美)

別紙準抗告申立書〈省略〉

別紙

1 被疑者の勾留は、被疑者が、共犯者その他の第三者と通謀したり、虚構の証拠をねつ造する等の方法により、不当に罪を免れることを防止するためのものであり、当然のことながら、取調べを目的としたものではない。

2 他方、被疑者を身近な警察の留置場に勾留することは、被疑者の身柄を拘置所に置くよりも、接見・差入れ等の点で被疑者に利益になる場合が多いこと、その方が取調べにも便宜であること、拘置所の収容人員に限りがあることなどを考慮して、実務上多く行われているが、勾留場所として代用監獄を利用することは、弁護人が申立書において適切に記載しているとおり、他方において、種種の重大な人権侵害をもたらすおそれがあること等にかんがみ、特に、被疑者が、被疑事実を強く否認していたり、黙秘する態度を明らかにしている事案においては、慎重な対応が求められて然るべきである。

3  ところで、本件は、埼玉県議会議員候補者であった被疑者が、自己の後援会の支部長に対し、買収資金として金三〇万円を供与したという事案であるところ、本件においては、被疑者は、金員の趣旨について強く争い、捜査機関に対する供述を拒否する態度を明らかにしているのであって、このような被疑者の身柄を、全面的に捜査機関の管理下に置き、長時間の取調べを許容するときは、その黙秘権を侵害する不当な取調べが行われる事態を防止することができず、相当でない。

4  他方、被疑者を浦和拘置支所に勾留することとなると、所轄警察署との地理関係等により、捜査が若干制約される結果となることが明らかであるが、前記のような本件の罪質、態様及び争点の所在等からみると、被疑者を同拘置支所に勾留したからといって、その故に、今後予想される具体的な捜査の遂行に重大な支障が生ずるとは考えられない。

5  そうすると、被疑者の勾留場所を朝霞警察署留置場とした原裁判は、これを拘置所ないし拘置支所としなかった点で不当であり、取消しを免れない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例